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語り継がなければならない事実 -ソンミ村大量虐殺事件から40年-
ベトナム中部クアンガイ省。都市部を離れるとすぐ、辺り一面にのどかな田園風景が広がる。省都クアンガイから北東およそ13kmに位置するソンミ村(現ティンケ村)。放し飼いにされた鶏がゆっくりと道路を横断し、牛は畦道で、のほほんと草を食みながら時を過ごしている。人びとは、昼下がり、黄金色に実った田んぼの真ん中でひとかたまりになって脱穀作業に時間を費やす。まるで幻想的な油絵の中に見る世界だ。 ソンミ村虐殺事件記念館に記されている犠牲者504人の名前。 40年前、そのソンミ村で忘れられない痛ましい事件が起きた。 1968年3月16日午前5時30分、小鳥がさえずりながら弧を描き、鶏が遅い朝を告げようとしたとき、耳をつんざくような爆音とともに9機のヘリコプターがチュー・ライ米軍基地(クアンガイ北部)からソンミ村に飛来した。 この日、純朴な村民たちは、これまでにもあったような普通の掃討作戦だと思い、いつもと変わらない朝を過ごしていた。まさかこれが、これから訪れようとしている大量虐殺の予兆だと、誰一人、思ったものはいなかった。 1971年4月12日発行のNEWS WEEKの表紙。米陸軍ウィリアム・カリー中尉 米陸軍ウィリアム・カリー中尉率いる米兵部隊105名がヘリコプターから降り立った。米兵はいくつかのグループに分かれ、次々と民家と退避壕の中を捜索。民家を出て外へ逃げようとしたものは、出るそばから射殺され、死体が折り重なっていく。退避壕には爆薬を投げ込んで、人びとの体を粉々に粉砕し、瞬く間に無抵抗の村民に対し、無差別な虐殺行為を行なった。 その殺戮の犠牲になった総数は、民間人504人(うち182人が女性[そのうち17人が妊婦]、173人が子ども[そのうち生後5ヶ月以内のものが56人]、60歳以上の老人が60人、あと89人が中年)。247戸の家屋が焼かれ、水牛や豚、家禽類までもが殺された。 当時、ソンミ村で奇跡的に虐殺を免れた人が20人いた。うち13人がベトナム戦争終結までに米兵に殺されたか、戦後に病気などで命を落とした。現在、7人の生存者がいる。その中で、今もなお、生まれ故郷のソンミ村で暮らす人が3人いる。 生存者のひとり、ファム・タイン・コンさん(51)は現在、ソンミ村虐殺事件記念館で館長を務める。 あの日、コンさんは、母と3人の妹、弟と退避壕に入るよう米兵に命じられた。直後、手榴弾が壕の中に投げ込まれ、一番奥にいたコンさん以外の家族5人が爆死。家族の遺体の下から命を取り留めたコンさんが助け出されたのは、米兵撤収後の夕方4時ごろのことだった。 「私は当時10歳でしたが、はっきりと虐殺の様子を覚えています。今、私に出来ることは、恒久平和を守るために、過去の真実を話し続けること。その必要性をひしひしと感じています」 目の前で娘を輪姦され、殺害されたと話すトゥン・ティ・レさん(79)。彼女の涙が当時を物語る。 トゥアン・イェン小集落に住んでいたトゥン・ティ・レさん(79)。家族、親戚含め、13人中11人の命が奪われた。レさんと当時6歳の4番目の息子のみが助かった。子どもたちをベッドや退避壕の中にかくまったが、17歳の娘は引きずり出され、レさんの見ている前で米兵に輪姦されたあと、殺害された。 「今、アメリカ人は嫌いじゃない。友人だ」とレさんは言うが、当時を思い出し、泣きながら話す口調には、今なお、米兵に対しての怒りと憎悪、悲哀がこもっているようにもとれる。 大量虐殺事件から9日目、南ベトナム民族解放戦線の中部ベトナム委員会が、ソンミ村における米兵の犯罪行為を激しく糾弾する緊急宣言を採択し、68年4月16日、この宣言をハノイで公表した。 また、当時現場に居合わせた複数の米軍兵士からも虐殺行為は軍上層部に報告されている。しかし、軍上層部及び傀儡政権は、世論を反戦の方向へ導く可能性が高いため、事実を隠し続けた。世界の人びとがこの事実を知るにいたったのは、虐殺事件から18ヶ月経った翌年9月のことだった。 経験したものにとって、決して忘れ去ることが出来ない事実。ソンミ村大量虐殺事件は、歴史の教科書の1ページにしてはならない。同じことを繰り返さないためにも、コンさんが話すように語り継ぐ必要がある。 40年前に起きた惨劇は、まぎれもない事実であり、それは幻想的な油絵の中に見る世界であってはならない。 (WEB新聞 JAN JANに投稿した記事) WEB新聞 JAN JAN http://www.news.janjan.jp/world/0809/0809217748/1.php
by yasumu43jp
| 2008-09-22 11:18
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